新型コロナ関連で雇用調整助成金を使いたいけど、従業員に休業手当をいくら払えばよいのか?
法的には最低60%以上と言われてもイメージがつかない。
具体的な数字を見て休業手当の金額を決めたいので、詳しい情報を教えて欲しいという問い合わせが弊社にも増えています。
この記事では雇用調整助成金の助成額と休業手当を決める際の基本的な考え方や計算方法などをいくつかのモデルケースで紹介します。
ただ記事内で紹介している数字は大まかな目安ですので、実際の数値とは異なる場合がありますことを予めご理解ください。
雇用調整助成金の助成額の計算方法
雇用調整助成金の助成額の計算方法は少しわかりにくいですが、
助成金の計算方法
助成金額は次の手順で計算します。
- 昨年度*の労働保険申告にて雇用保険の算定基礎となる賃金額を基に会社全体の1人1日当たりの平均賃金額を算出
- 1で求めた金額に、休業協定で定めた休業手当の支給率を掛ける
- 2に助成率(中小企業の場合4/5、解雇者がいない場合9/10)を掛ける
- 3に休業手当を支払った延べ日数・時間を掛ける
*H31年度分が確定していない場合はH30年度分を利用して計算します。
この計算方法がわかりにくい場合は、「新型コロナ関連の雇用調整助成金申請を格安で業者に依頼したい方へ」という記事内に簡単に計算できるエクセルシートがあるので、それを使って試算してみてください。
雇用調整助成金の助成額を3つのモデルケースで紹介
ここではよりわかりやすくするために、雇用保険被保険者数を8人・年間の所定労働日数を265日に固定し、1人1日当たり助成額目安は2020年4月1日以降の最大助成率である10分の9を使って計算しています。(3月31日までは3分の2助成)
【モデルケース1】 前年度の賃金総額が1,500万円の企業さまの場合(正社員が少なくアルバイトが多い場合)
モデルケース1の内訳
- 前年度1年間の雇用保険料の算定基礎となる賃金総額:1,500万円
- 前年度1年間の1ヶ月平均の雇用保険被保険者数:8人
- 前年度の年間所定労働日数:265日
上記で計算すると、平均賃金は7,075円になります。
この金額に休業協定で定めた休業手当の支給率を掛けると従業員を1日休ませた時に支給される助成金の金額になります。
【モデルケース2】 前年度の賃金総額が2,500万円の企業さまの場合(正社員、アルバイト同数)
モデルケース2の内訳
- 前年度1年間の雇用保険料の算定基礎となる賃金総額:2,500万円
- 前年度1年間の1ヶ月平均の雇用保険被保険者数:8人
- 前年度の年間所定労働日数:265日
上記で計算すると、平均賃金は11,794円になります。
モデルケース1と同様に休業手当の支給率を掛けると助成金額を算出できますが、80%以上の支給率で助成金額の上限を超える結果になりました。
【モデルケース3】 前年度の賃金総額が3,500万円の企業さまの場合(正社員が多く、アルバイトが少ない場合)
モデルケース3の内訳
- 前年度1年間の雇用保険料の算定基礎となる賃金総額:3,500万円
- 前年度1年間の1ヶ月平均の雇用保険被保険者数:8人
- 前年度の年間所定労働日数:265日
上記で計算すると、平均賃金は16,509円になります。
正社員の割合が多い場合だと平均賃金が高くなるために、どのような支給率でも助成金額の上限を超える計算となりました。
雇用調整助成金はアルバイトやパートの割合が多い企業さまだと低くなる傾向がありますので注意してください。
従業員を1日休ませた時にいくらの助成金額が出るかを把握した次は、実際にいくら休業手当を支払うか(支給割合)についても決定する必要があります。
雇用調整助成金の休業手当の金額を決める方法は?
休業手当については、平均賃金の60%以上を支払わなければいけないと定められています。(労働基準法第26条)
平均賃金の計算方法は
- 3ヶ月の総賃金÷3ヶ月の暦日数
- 3ヶ月の総賃金÷3ヶ月の労働日数(有給含む)×60%
*3ヶ月は休業初日直前の給与計算期間の3ヶ月のことです。
原則1を用いて計算し、月給以外の人については1、2のどちらか高い方が平均賃金となります。(目安として3ヶ月労働日数が54日以下の場合2の方が高くなります。)
※上記は大まかなイメージなので、実際の労働状況によって異なります。
弊社がおすすめする2つの計算方法から、どのように休業手当の金額を決めるべきなのかを紹介しますので参考にしてください。
基本給30万円+諸手当5万円で直近3ヶ月で105万円支払った従業員の場合
基本給が30万円で残業手当や営業手当などで5万円ほど支給し、毎月35万円(3ヶ月で105万円)の給与を得ていた従業員をこの部分でモデルケースとして採用します。
休業手当のルール
休業手当の最低保証額は過去3ヶ月の平均賃金の60%以上を支給することが唯一のルールです。
平均賃金は、勤務日数で算出するのではなく、実際の暦どおりの日付で計算しますので、この従業員の平均賃金は、105万円(3ヶ月合計給与)÷90日(3ヶ月の暦日と仮定すると)=11,667円。
休業手当の最低保証額は平均賃金の60%以上ですので、11,667円×60%=7,000円以上の休業手当を払えば問題ありません。
最低ラインの金額をクリアしていれば、どのような金額に設定にしてもよいということで、多くの企業では、休業手当の算出に基本給を用いて計算されています。
固定的に支払われる賃金を使って休業手当の金額を算出する
ネクサス社会保険労務士法人おすすめの計算方法1は、「固定的に支払われる賃金を使って休業手当の金額を算出する方法」です。
先ほど説明したように最低保証額を上回る休業手当を支払えばどのような金額を設定しても問題ありませんので、毎月固定的に支払われる賃金の◯◯%を休業手当として設定します。
従業員側の理解のしやすさ、給与計算担当の管理のしやすさがこの計算方法のメリットで、
固定的に支払われる賃金
- 基本給
- 固定残業手当
- 役職手当
- 住宅手当…など
※出社していない従業員の通勤手当の扱いは会社により異なり、上記に含めても含めなくても良いので会社ごとにルールを決めてください。
変動的に支払われる賃金
- 実残業手当
- 業績給
- 歩合給
- 指名手当…など
このように業績や結果によって毎月変動する金額は、休業手当の計算に含めないというルールにすることでわかりやすさを重視することができます。
ただ、毎月のお給料で上記変動部分の割合が大きな会社さまの場合は、固定的に支払われる賃金をベースにして計算すると従業員の立場からは不公平に感じやすいので注意すべきでしょう。
変動的に支払われる賃金が多い会社さまにおすすめなのが、
3ヶ月の平均賃金を使って休業手当の金額を算出する
ネクサス社会保険労務士法人おすすめの計算方法2は、「3ヶ月の平均賃金を使って休業手当の金額を算出する方法」です。
業績給や歩合などの割合が多い従業員を多く抱える会社、重要なポストにいる従業員の給与の中で変動的に支払われる賃金の割合が高い会社におすすめの計算方法です。
このような傾向が強い会社では固定的に支払われる賃金を基準にせずに過去3ヶ月の平均賃金を用いた計算をする方法がよいでしょう。
具体的なルールとして、
過去3ヶ月の平均賃金の◯◯%を休業手当とする。
基本給20万円+歩合給のような給与設定の場合は、
- 1ヶ月前、45万円(基本給20万円+歩合給25万円)
- 2ヶ月前、20万円(基本給20万円+歩合給0万円)
- 3ヶ月前、40万円(基本給20万円+歩合給20万円)
合計105万円の給料の場合、最初に求めた通り平均賃金は11,667円となり、この金額を基準として支給率を掛けて休業手当を計算するという方法です。
変動的な手当が多い企業などは、この計算方法を採用することで従業員の不平を減らすことができますので、総合的な判断を行ってください。
雇用調整助成金の休業手当の支給割合は変更できないのか?
新型コロナウィルスの影響はまだどこまで続くかわかりませんし、経営状況が時間とともに刻々と変わっていくという場合もあるでしょう。
そうなると気になるのが、雇用調整助成金の休業手当の支給割合を変更できないのかということ。
休業手当の支給割合
給与の締め日ごとに休業協定を締結し、休業手当の支給割合を変更することができます。
初月は80%支給して1ヶ月毎に70%、60%と変更させても問題ありませんので、経営状況や社会情勢に合わせて調整してください。(注、新たな休業協定が必要です。)
給与計算期間ごとに計画を提出する必要があるので、そこで休業手当の支給割合を変更することができます。
雇用調整助成金の休業手当の金額の決め方の記事まとめ
この記事では新型コロナウィルス関連で雇用調整助成金を利用する場合に、どのように支給割合や金額を決めるべきかということについて解説してきました。
休業手当の最低保証額は過去3ヶ月の平均賃金の60%以上なので、これを上回ればどのような金額を設定しても問題ありません。
結論
- 毎月固定的に支払われる賃金が多い会社はパターン1の計算方法を採用する
- 歩合給など変動的な賃金が多い会社はパターン2の計算方法を採用する
休業手当の支給額からも社会保険料や税金が引かれますので、従業員の生活に影響がない状態になるような休業手当の金額を設定することをおすすめします。
その他の新型コロナウイルス関連の助成金情報
新型コロナウィルス関連の助成金情報
上記の記事を参考にしていただくと、新型コロナ関連の助成金についてより理解が深まると思います。